レンジエクステンダ

内燃機関をレンジエクステンダとして使用することで、バッテリー駆動によるパワートレインを搭載した乗用車の航続距離を、在来型パワートレイン搭載車と遜色のないレベルにまで延ばすことができます。レンジエクステンダが電動ドライブシステム搭載車の普及の鍵になると言うこともできるでしょう。私たちマーレは現在、自社開発のレンジエクステンダプロトタイプを製作し、この種のパワートレイン技術の可能性を探っています。

電動ドライブとレンジエクステンダを搭載したプロトタイプ(レンジエクステンダ搭載電気自動車=REEV)は、レンジエクステンダパワートレインの市場性分析を踏まえ、典型的なユーザープロフィルから1日の走行距離を郊外と高速道路走行合わせて50~80 kmに設定、さらに構造上の必要性を考慮して、従来駆動方式のBセグメントの車両をベースに製作されています。マーレが開発したレンジエクステンダエンジンはコンパクトで、取付け位置を柔軟に選ぶことができ、Bセグメントの車両に特に適しています。

発電機を内蔵した直列2気筒のレンジエクステンダは、ベースモデルの排気量1.2リッター直列4気筒エンジンと比較してはるかにコンパクトです。高電圧バッテリーを別として、定格出力55 kW(ピーク出力100 kW)の電気駆動モーターと2段減速トランスミッション、その他主要ドライブコンポーネント(インバーターとコントロールユニットを含む)のすべてが非常にコンパクトで、エンジンルームに容易に収めることができます。

ただ、広いとは言い難いエンジンルームに内燃機関と電動ドライブの構成部品を互いに接して取り付けることになるため、それぞれの冷却回路を統合する必要があります。内燃機関内部のクーラント温度は一般に90℃前後、一方の電動モーターの冷却回路ははるかに低温の約40℃です。そのため、互いに干渉し合うことがないよう、断熱対策を施す必要があります。プロトタイプ車両に取り付けられたメインラジエタは、それぞれの冷却回路の要求に基づいて設計されています。より多くの冷却効果を必要とする回路を優先して機能する構造です。

また、電動パワートレインは基本的に、最高速度以外はベースモデルと同等ないしそれ以上の出力性能を発揮できるように設計されています。駆動系の構造ゆえに積載容積が圧迫されるということはありません。その実証も、プロトタイプに与えられた重要な課題でした。容量14 kWhの高電圧バッテリーの取付け位置は、スペアホイール格納リセスの下。ラゲッジスペースにも、パッセンジャーコンパートメントにも影響しない場所です。また、容量約45リッターというベースモデルの燃料タンクは、ほぼ半分の25リッターまで縮小されました。

マーレはレンジエクステンダの作動ストラテジーを最適化するにあたり、排ガス、騒音、振動を基準限度内に収めながら、走行中の燃費が最小になるような設定を選びました。また、燃焼サイクルの回転速度の変動を抑え、開発の初期段階からエンジンの応用開発に要する労力が最小になるようにしました。発電機の動的負荷を制御し、適切な作動ポイントを選ぶことで、極めて良好なベースラインが得られます。低回転域の部分負荷作動ポイントで、排ガスの抑制(Euro 6基準値の約30%)とNEDC測定サイクル燃費の間の絶妙なバランスが得られることも、冷間始動試験で確認されています。

現行のEU排ガス基準に則して言えば、プラグインハイブリッドと呼ばれるレンジエクステンダ付き電気自動車のCO2 排出量を最小に抑えるには、純粋に電気だけで走る距離を最大限に延ばし、バッテリーへの過充電を防ぐことが重要です。バッテリーの充電に再生可能エネルギー(風力、水力、ソーラーなど)由来の電力を使用すると仮定した場合、航続可能距離が尽きる所でバッテリーを使い切っていなかったとしたら、それはCO2 排出とのバランスから非生産的という非難を受けてもやむを得ないでしょう。レンジエクステンダ作動のタイミングはバッテリーの充電レベルが下がってから(電気だけで行けるところまで行った後)とし、必要な駆動力をわずかに(例えば+1kW)上回るレベルにまで出力を抑えるのが、REEVの燃費に最適な作動ストラテジーだと言えます。一方、実際の走行時に作動音をバックグラウンドノイズレベル以下に抑えるための作動ストラテジーには、必要な駆動力が5 kW以下または車速が45 km/h以下のときは、例外的な状況(バッテリー充電レベルが非常に低下した場合など)を除いて、レンジエクステンダを使用しないことが賢明です。標準的な運転条件では、レンジエクステンダの出力を車速に応じて調整します。

このような作動ストラテジーにより、プロトタイプ車両は純粋に電気だけで走った場合の航続距離(約70 km)を超えて、さらに400 km以上を走行することができ、その間の平均CO2 排出量は45 g/km以下に抑えられます。CO2 排出量は、最も条件の良い状態で測定されたベースモデルの数値に比べ、3分の2近く減少します。そして非常に重要なのが、マーレのパワートレインが発揮する総合効率の高さです。パワートレイン全体の総合効率は、最も良好な作動ポイントで31%を超えます。2つの追加エネルギー変換(機械的エネルギーを電気エネルギーに、そして電気エネルギーを再び機械的エネルギーに)を行うシリアルハイブリッドドライブは効率の面で物理的なデメリットを抱え ていますが、この数値は大変優れたものです。システムの性格上、その効率は最新の在来型パワートレイン(ガソリンで35%前後、ディーゼル40%強)には及びませんが、マーレのパワートレインはその差を大きく縮めています。

世界中の自動車メーカーは燃費と排ガスをさらに低減するための可能性を探っており、今後、アプリケーション分野に応じて多種多様なパワートレインが登場するものと予想されます。そうした傾向に大きく貢献するのが、既存の内燃機関の適応性を高める開発です。次の10年間、純粋な電動パワートレインは、小型車とコンパクト車が主流を占める都市環境でのシェアは5%前後に達するだろうと予測されます。その電気自動車にレンジエクステンダを装備すれば、航続距離の制約が取り払われるだけでなく、蓄電容量の小さいバッテリーを使用できるようになり、コスト全体も低下します。言い換えれば、レンジエクステンダが電動パワートレインの魅力を飛躍的に高めるのです。自らまとめ上げたパワートレインに 関するシナリオに基づき、私たちマーレは今後10年を、レンジエクステンダが純粋な電気自動車と並んでその存在価値を表す時代になると予測しています。それが、この製品の開発を続け、未来のモビリティ創造に積極的に参加していこうという私たちの決意につながっています。