ドライビングダイナミクスを向上させるiCAS

チャージエアを効果的に冷却するための水冷インタークーラは様々なメーカーが量産しています。またマーレでは、従来の水冷インタークーラの開発・量産以外に、カスケード式水冷インタークーラをすでに開発しています。しかし、これらを使っていても冷却後のチャージエア温度は外気温以下にできないという物理的限界があります。そこでマーレは水冷インタークーラの冷却水をエアコン冷媒回路にて冷却することにより、この限界を突破して、室内の快適性や燃費を犠牲にすることなく、走行性能を大幅に向上させるシステムを開発しました。

  • ターボコンプレッサーの圧縮によってチャージエアの温度が上がり、燃焼効率が悪くなります。たとえばノッキングの発生、NOxの増加およびエンジン部品全体の熱負荷の増大などです。またチャージエアの密度が温度上昇と共に低下するため、燃焼室内に導入できる酸素量が減ります。そのため、1bar、25°Cの空気に対し過給圧を2倍にしても、チャージエア密度を50%しか高めることができません。従来のインタークーラは、そのチャージエアを外気温度より約15K高い温度まで冷却することで、密度を40%増大することができます。このiCASは、サブクーリング(過冷却)によりチャージエアを外気温度より15K低い温度まで冷却することができれば、チャージエア密度は、さらに21%増加します。この効果は200mbarの過給圧増大に相当します。

一般的に、自動車用空調装置は、外気温が高いときに急速な冷却ができるように設計されています。一旦、車内が快適な温度になった場合の冷却能力は、4kW以上になることもあります。また、負荷変動が大きい場合には、コンプレッサの出力を制限して、パワートレインの損失を最小化しています。このことはエアコン冷媒回路の熱慣性が大きいため、ドライバーにはほとんど感知されません。これに代わり、余剰出力をチャージエアを冷却するためのサブクーリングに活用することが可能です。

マーレ製の新しいiCAS(integrated Charge Air Subcooling)のインテークパイプは膨張弁付きチラー(エアコン冷媒とクーラントの熱交換器)を介してエバポレータにに対し並列で冷媒回路に接続されています。そのチラーから一体化された熱交換器に冷却水を供給します。またサブクーリング機能と従来の空冷インタークーラ機能はバイパスバルブで切り替えることが可能なシステムになっています。

マーレはiCASシステムを 定常状態の1.0L 3気筒ターボガソリンエンジンに組み込み、チャージエア温度は10°Cの条件でベンチテストを行いました。その結果、チャージエア温度40°Cの場合に比べて、1,100~1,300rpmの低回転におけるトルクが16%~19%改善することが確認できました。これによって、過給圧を200mbar分低くし、最適化した点火位置をクランクシャフト角で3°~5°前へシフトすることが可能になります。

ただし燃費の評価に際しては、空調用コンプレッサの出力増を考慮する必要があります。環境条件は特に応答性と燃費に影響を及ぼします。この時iCAS(サブクーリング30K)のためのエアコンコンプレッサの消費出力は、計算によれば、外気温度25°C相対湿度50%において、約0.85kWとなり、iCASによる出力増加の1/4以下です(回転数1,300rpmにおいて)。

この比率は設計の最適化および適切な”負荷制御ストラテジー”により、さらに改善することができます。たとえば、制動時の回生エネルギーをiCASに使用することにより、iCASによるエアコン用コンプレッサの消費出力増がなくなるため、iCASにより、1,300rpmで22%以上の出力改善が実現可能です。

マーレ製iCASによる動的性能改善効果を確認するため、コンパクトクラスの車に実装し、負荷制御ストラテジーにてテストを行いました。最初の評価では、外気温度30°C(太陽光800W/m2)/温度50%における、30km/hから50km/hへ(4速ギア)への加速のシミュレーションを風洞実験をで行い、コンプレッサのクラッチを切った状態において、iCASを用いない場合に比べて、目標加速への到着時間が0.7秒速くなりました。同時に、必要な過給圧への到着時間が大幅に短縮されました。

また、エアコンコンプレッサを介して回生した制動エネルギーをiCASに利用する可能性を実証するため、風洞実験で次の仮想走行のシミュレーションを行いました。30km/h定速走行から130km/hまで加速、この速度での定速走行の後、制動により再度30km/hまで減速を行います。その結果、–2 m/s2の中程度の制動中クラッチがつながった状態のエアコンコンプレッサを通じて回生されるエネルギーによって、加速時にiCASで消費されるエネルギーを相殺できることがわかりました。これよりも加速が速い場合、あるいは短時間に強く制動した場合には、このエネルギーは部分的にしか相殺されません。とはいえ、この試験結果は、制動時の回生エネルギーを利用したiCASの運用はNEDCまたはWLPTサイクル条件でも可能であり、燃費改善に貢献できると示しています。

iCASを導入するための基本的な前提条件は、室内の快適性が感知できるほど損なわれないことです。それには、空調とインタークーラ両方のコントロールを適切に調整する必要があります。

そのため、外気温及び室内温度が高いときに最大出力でのエアコン運転を行う場合には、室内用エバポレータがiCASよりも優先されます。冷風温度が設定値に達した後、エバポレータ温度への影響を確認しながら、iCASのチラーが短時間運転されます。以後は、冷風温度に応じたチラーの運転が繰り返されます。このような制御をすることで、エアコン使用時にiCASを2~4分間、最大負荷で使用していても、エバポレータの温度を±3°C以内にコントロールし、運転手に感知されないようにすることができます。また両回路ともに、それぞれの目標温度に達成した後は、室内温度を維持するレベルに、ため、エアコンコンプレッサの負荷を低下させることができます。

マーレでは、このように制御されている運転状況において冷媒回路の熱慣性を利用して室内空調とiCAS両方の要件を調和させます。すなわち、室内を継続的に冷却する一方、実際に要求される走行性能にiCAS冷却の必要な出力を確保します。エアコンコンプレッサのクラッチを15~20秒間冷媒回路から切り離しても、熱慣性のため室内空調には感知できるほどの影響はありません。中欧圏の気候では、通常iCASの稼動にはこの程度の時間で十分です。

マーレは、従来それぞれ独立していた空調とエンジン冷却システムを結合させることにより、ターボガソリンエンジンの性能をさらに向上されることに成功しました。特に低回転域での運転性能、いわゆるローエンドトルクを大幅に向上されることができ、また空調システムの余剰エネルギーを利用することにより、燃料効率が改善されます。iCASシステムは、制動時のエネルギー回生を利用することにより、燃料消費を増大させることなく出力をさらに増加することができます。その際、室内の快適性が感知できるほど損なわれることはありません。

  • 空調とエンジン冷却の両システムを統合することにより、室内快適さを犠牲にすることなく、ガソリンターボエンジンの性能をさらに向上させることができます。
  • また燃料効率が向上し、低速域のトルクが大幅に増大します。
  • 特に制動エネルギー回生によりパーフォマンスの向上が期待できます。