Newsroom

13.07.2020

マーレが世界初の3Dプリント高性能アルミピストンを開発

  • 金属3D積層造形:Porsche及びTrumpfとの共同プロジェクトで生み出された世界初の3Dプリントピストン
  • Porsche 911 GT2 RS での試験に成功:過酷条件下でのテストベンチ200時間耐久試験
  • 3D プリントピストンの採用で出力700馬力の駆動ユニットの性能・効率改善を確認
  • マーレは代替駆動システムへの3Dプリント技術の採用拡大に向け技術力を強化

「今回のプロジェクト結果で、3Dプリントが持つ大きな可能性を確認することができました。また、マーレが高性能部品の少量限定生産や、試作、アフターマーケットへの対応に優れた企業であることも示すことができました」。こう話すのはマーレでHead of Corporate Research and Advanced Engineering を務めるDr. Martin Berger。

Porscheでプロジェクトマネージャーを務めるFrank Ickinger氏は次のように述べています。「プロジェクトに関わる全てのメンバーの緊密な連携により、当社の高性能スポーツカーの中でも最上級モデルとなるPorsche 911 GT2 RS で、3D積層造形の可能性を確認することができました。未来の駆動システムに新たな道が開かれたのです。技術的に当社にとって新たな時代の幕開けとなるでしょう。デザインと生産、その両面において全く新しい可能性が開かれたと感じています」。TrumpfのプロジェクトマネージャーSteffen Rübling氏も、3Dプリントがこれからの製造プロセスに果たす役割に大きな可能性を感じています。「これまで何十年という歳月をかけて開発を繰り返し、性能向上の限界にあると思われた部品も、3Dプリントの採用で新たな改善の可能性を引き出すことができることを、今回のプロジェクトを通じて実感できました。この技術は航空宇宙やエネルギーなど、様々な産業で生かすことができると考えています」。

「バイオニックデサイン」がピストンの軽量化と最大エンジンスピードを実現

3Dプリントの採用で、「バイオニックデザイン」を選択肢に加えることが可能になります。バイオニックデザインは、人間の骨格など自然界の生物の構造に注目した生物模倣と呼ばれる考え方を取り入れた設計手法です。このアプローチを採用することで構造上のどこに荷重がかかるのかが明確になり、必要な箇所にピンポイントで材料を追加して強度を高めることができます。今回のプロジェクトでも、荷重負荷に最適化した構造のピストン設計を実現することができました。3Dプリントピストンは材料使用量の削減により従来の製造方法に比べて20%の軽量化を達成していますが、それと同時に高剛性化にも成功しているのです。

また、マーレの開発メンバーは冷却ギャラリーの設計最適化にも取り組みました。冷却ギャラリーをピストンリング近傍の最適位置に配置できるよう、その形状を特殊設計しました。マーレには長年に渡って積み重ねてきたピストンの熱プロセスに関する経験があります。そのノウハウを3Dプリント技術だからこそ活かすことができた設計です。この冷却ギャラリーの最適設計により、ピストンの「トップランド」と呼ばれる部位の熱負荷が軽減されます。トップランドはピストンの中でも特に高い負荷がかかる場所です。ここの負荷を低減することで、エンジンの燃焼行程を最適化し、最大エンジンスピードを更に高める可能性を引き出すことができたのです。

3Dプリントを採用した新たな製造工程に欠かせないのが、マーレが開発した特殊アルミ合金です。この合金は鋳造ピストンの生産に長年使用されてきた実績があります。これを粉末状に微粒化し、Laser Metal Fusion(LMF、レーザーメタルフュージョン)と呼ばれる工法でプリントしていきます。レーザーが指定された層の厚さに金属粉末を溶融し、その上にまた新たな層を重ねるという作業を繰り返し、ピストンの形状に積層していきます。3DプリントメーカーTrumpfは、この工法を使っておよそ1,200層から成るピストンブランクを12時間で製造することに成功したのです。

「今回のプロジェクトでは、様々な課題に直面しました。ピストンの設計から素材の仕様、3Dプリントの最適パラメータまで、最高の結果を得るために数多くの微調整を繰り返しました」。こう話すのはマーレでHead of Product Design in Advanced Engineeringを務めるVolker Schallです。「3Dプリントの技術に精通することができ、既存の製造プロセスへの応用についても検討することができるようになりました」。

過酷な試験で立証された高い品質

ピストンブランクはマーレへ搬入後、仕上げ加工を施し、計測、試験を行います。全て従来品と同等の厳格な基準をクリアすることが求められます。特に「スカート」と呼ばれるピストンの中心部や、コンロッドと結合する「ピンボア」には細心の注意が払われます。これらの箇所には、スカート振動疲労試験を行い、マーレのエンジニアが実車で想定される負荷をシミュレーションします。

試験後のピストンは断面解析用に切断しますが、今回のプロジェクトでは非破壊試験も行っています。非破壊試験は、プロジェクトパートナーの光学機器メーカーZeissに依頼し、CTスキャンや3Dスキャン、マイクロスコープなどの機器を使って広範な項目を網羅した解析を実施しました。その結果、3Dプリントで製造したピストンは、従来の製造方法で作られたピストンと同等の高い品質基準を達成したことが確認されました。エンジン試験は、実際のPorsche 911 GT2 RS のエンジンを使ったテストベンチに6本のピストンを装着して実施。過酷な条件下で行われた200時間の耐久試験で良好な結果が得られました。この耐久試験では、およそ6,000kmの距離を平均時速250kmで走行することを想定し、給油停車も条件として組み込みました。全負荷走行は合計およそ135時間。また、過回転(オーバーラン)走行試験も合計25時間行なっています。

インタークーラの追加で効率性が更に向上

3Dプリントがもたらすメリットは更に広がります。インタークーラを追加搭載することが可能になったのです。これもPorscheとTrumpfとの共同プロジェクトの産物です。3Dプリントの採用で伝熱面積の大幅な拡大が可能となり、過給機と既存のインタークーラの間にあるエアパイプ内に新たなインタークーラを設置することに成功しました。これにより気流や冷却管理が最適化され、 従来よりも低温の吸入空気を供給することが可能になりました。これがエンジン性能や燃費の向上に貢献します。

3Dプリント技術力を戦略的に拡大するマーレ

マーレは3Dプリントを始めとする新しい生産技術の可能性を模索するため、今後も様々なプロジェクトを展開し、この分野における技術力の拡大を目指します。開発・生産時間の短縮は、大きなメリットになります。特にe-モビリティのような新しい技術では、開発・生産リードタイムの削減が重要視されます。電気自動車の場合、車内だけでなく、モータやトランスミッションハウジング、バッテリシステムの空調や冷却が非常に重要となりますが、その役割を担うサーマルマネージメント部品の構造は非常に複雑です。また、モータ周辺の吸排気経路やフィルタハウジング、オイルマネージメント部品などの最適化部品も、リードタイムの短縮化が注目される分野です。

また、3Dプリント技術の需要は、少量生産品やクラッシックカー向けアフターマーケットなど、生産が打ち切りとなった部品の供給でも見込まれています。供試部品を短期間で製作することが求められる「ラピッドプロトタイピング」や、既存部品を3Dスキャンデータに取り込む「リバースエンジニアリング」などでも同様のニーズが想定されています。

マーレについて

1920年に設立したマーレは未来のモビリティの先駆者であると同時に、自動車業界トップクラスの開発パートナー、そしてサプライヤーとして世界で活動しています。マーレグループは従来の内燃機関、ハイブリッド車及び電動車用に、パワートレインや空調技術に関する必要不可欠な要素を網羅する製品ラインナップを展開しています。2019年の売上高は120億ユーロ(1兆4,711億円)に達しました。現在、世界30ヶ国以上、160の生産拠点で77,000人以上が従事しています。

お問合せ先:

Ruben Danisch
Head of Corporate and Product Communications
Tel: +49 711 501-12199
E-mail: ruben.danisch@mahle.com

Christopher Rimmele
Product, Technology, and Aftermarket Communications Spokesman
Tel: +49 711 501-12374
E-mail: christopher.rimmele@mahle.com

広報担当(アジア1)
ジュディアン・ゴ
Tel: 050-3363-0015
E-mail: judy-ann.go@jp.mahle.com

Image gallery

6 写真

リリースのダウンロード
PDF
225 KB