エンジン試験

米国ミシガン州にあるマーレの拠点だけで、18基のエンジンテストベンチが揃っています。

エンジン開発では、構成部品の実機テストが欠かせません。社内で実施するエンジン試験により、製品の機能性と品質に関する厳然たる事実を洗い出すことができます。

マーレグループは、10ヵ所にテクニカルセンターを、8ヵ所にエンジン試験施設を擁し、テストベンチの数は合計92台にのぼります。テクニカルセンター、そしてエンジン試験ラボは、自動車産業の主要中心地の近くにあり、それぞれ地元のお客様と緊密に協力しています。

エンジンとその構成部品の開発およびテストは、次第に分散化される傾向にあります。そのためには、各地のエンジン試験拠点間の情報交換と透明性の確保が欠かせません。

マーレのエンジン試験拠点は、グローバルなデータベースとワークプラットフォームを介してネットワーク化されています。それにより、技術データをどこでもいつでも入手できます、それに加えて定期的な体験情報の交換が保証されます。エンジン試験のためのアプローチ、測定・解析方法、およびテストプログラムは、定期的に開かれるミーティングの場で議論・比較されます。

マーレではエンジン試験の一環としてさまざまな作業を行っていますが、これらは基本的に6つのカテゴリに分類することができます。

  • 測定方法の開発
    測定、検査・診断、解析のための新しい方法が、新製品開発にとって重要な情報をもたらします。グローバルな協力とローカルな開発努力から生まれた新しい手法が、マーレグループの全拠点に導入されます。新しい方法があらゆる拠点で実装され、貴重なデータと知見がマーレ内はもちろん、お客様との間でも共有されるということです。
  • 基礎研究
    この作業過程では、一般的に応用できるアクションのリストを作成、検証し、具体的な問題とテーマエリアに適用する準備をします。
  • 新製品のエンジン試験
    新製品をカスタマーアプリケーション向けにリリースするには、それを技術的、機能的に十分に熟成させる必要があります。そのために社内で一連のエンジン試験を実施し、新製品の試験と検証を行います。
  • 製品のエンジン試験から量産リリースまで
    製品開発のこの過程では、既存の製品をお客様の仕様に適合し、お客様ごとに決められた一連のエンジン試験を通じて試験します。個々の構成部品の相互作用を評価し、相互に最適化するには、パワーセルユニット(PCU。ピストン、ピストンリング、シリンダーライナなどで構成)の総合テストが欠かせません。
  • トラブルシューティング
    量産品に問題が生じたときは、迅速な対応が必要です。現場で起きた問題を、適切な方法によりエンジン試験設備で再現し、考えられる対処策をテストします。
  • 開発サービス
    エンジン試験を通じて、当社の経験と技術知識に基づく広範なサポートをお客様に提供することができます。開発サービスプロバイダとしてマーレは、社内で広範なエンジン試験を実施しています。

エンジン試験は、製品開発の最終ステップの一つです。エンジンを実際に動かして初めて、個々の構成部品の挙動と他の構成部品との相互作用を理解することができます。以下に羅列する、基本的な開発目標を達成するための細部の最適化措置は、エンジン試験が終わるまでは着手できませんし、その実効性を実証することすら不可能です。

  • 構成部品の機能性と強度の検証
  • オイル消費量とオイル分離の最適化
  • カーボン形成と各種残留物付着の防止
  • 構成部品の冷却および温度分布の最適化
  • 音響・振動特性の最適化
  • フローシステムの最適化
  • 摩擦損失と構成部品の磨耗の極小化
  • 熱力学と排ガス特性の解析
  • 作動マップの適用、データの設定

マーレのエンジンテストベンチは、小型の2サイクルエンジンから、乗用車用ガソリン&ディーゼルエンジン、さらには大型商用車用エンジンのテストに対応しています。テストベンチは最高出力1,200 kWまでのエンジンをカバーしています。

最新型のテストベンチは完全に自動化されており、昼夜連続して無人でエンジン試験を行うことができます。テストシーケンスの段取りを行うための複雑な搬送ツールと簡単操作の交換システムにより、テストベンチへのエンジンセットアップ時間が短縮され、ダウンタイムが減り、高い稼働率が得られます。

数多くの機械的開発・機能試験用テストベンチと熱力学・排ガス特性解析用テストベンチのほかに、マーレでは様々な特殊テストベンチを用意し、摩擦損失、音響特性、冷間始動特性などの重要な追加テーマの最適化のためにそれを利用しています。

機械的開発・機能試験用テストベンチ

機械的開発、機能性の検証、および構成部品の強度試験のための長期連続試験では、エンジンの作動媒体すべての調整をテストベンチによって行います。アクティブなテストベンチブレーキを使って、商用車エンジンのエンジンブレーキ機能を試験することもできます。

マーレ独自のテストプログラムに加えて、お客様が規定するすべての試験走行(熱衝撃試験など)を実行できます。

熱力学テストベンチ

機械的開発・機能試験用テストベンチにエンジン媒体調整システムがあるように、熱力学テストベンチにはインテークエア調整システムが装備されています。熱力学試験用に、高圧/低圧インデキシングシステムと対応する解析ツールが付属します。排気ガス組成分析のためには、標準的な5成分分析に加えて、FTIR(フーリエ変換赤外分光法)システムが用意されています。さらに排気ガスに含まれる微粒子の質量と数を分析するために数多くの計測装置が使われています。

コールドテストベンチ

コールドテストベンチ

コールドテストベンチは冷間始動時のエンジンの挙動を評価するもので、各種の表面コーティングについて冷間始動時に発生するスカッフィングが引き起こす損傷を試験することができます。テストベンチ全体は、クーラント、オイル、インテークエアを含め、–28℃まで冷却することができます。

音響特性テストベンチ

音響特性テストベンチ

ピストンやベアリング、バルブトレイン、インテークモジュールなどの構成部品の音響特性を最適化するために、反響を抑えたテストベンチを使ってNVH(騒音・振動・ハーシュネス)を広範に試験します。構造雑音と空気伝搬雑音の両方の測定に対応しています。定義された試験走行により、テストベンチ上で雑音発生の様子を精密に再現でき、考えらえる対処策を客観的に比較することができます。

コンプリートエンジン用摩擦力テストベンチ

摩擦力テストベンチ

CO2 排出低減に寄与する重要なファクターの一つに、エンジン内部の摩擦損失の極小化があります。シミュレーションとエンジン外部での摩擦係数の決定に加えて、マーレは複数のエンジン測定法を駆使し、摩擦損失の決定と極小化に努めています。

ピストン、ピストンリング、およびシリンダーグループの摩擦力は、単気筒フローティングライナエンジンにおいてシリンダライナに作用する軸方向の力を測定することで、クランク角の関数として決定できます。

マーレは摩擦力テストベンチと対応するツールを使い、コンプリートエンジンを実際に動かし、インディケーション法を用いて平均摩擦圧力作動マップを決定しています。この方法により、設計パラメータをあれこれ変えた場合の影響を、作動マップ全体にわたって把握し、相互に比較することが可能になります。平均摩擦圧力作動マップをもとに、適切なシミュレーションツールを使ってお客様(OEM)の車両に該当する走行サイクルに即したCO2 排出量を計算します。

同様にして、お客様(OEM)のエンジンの、法定走行サイクルにおけるCO2 排出量を個別に最適化することもできます。

キャビテーションのために損傷したシリンダライナ表面

キャビテーション

キャビテーションは、特に大型商用車エンジンにおいてシリンダーライナがウェットな状態のときに、シリンダライナ表面に腐食ピットを発生させ、長期的にエンジンの故障につながる可能性があります。その対策の実効性を確認するには、一般に、コストのかかる長期間の耐久試験を実施する必要があります。

キャビテーションのために損傷したシリンダライナ表面の顕微鏡写真

マーレは、キャビテーション発生傾向を診断、評価するための、複雑高度な計測法と解析手法を開発しました。
この方法を使えば、キャビテーション対策の有効性を低コスト、短期間で実証できます。

静的オイル消費量の特性マップ

オイル消費量

伝統的な計測法、例えば重量測定や体積測定、あるいはパン内のオイルレベルの測定のほかに、オイル消費決定のためにマーレでは化学的な解析手法も使用しています。化学的解析手法には、硫黄や三重水素などのトレーサーを使用する方法と、トレーサーによらない方法があります。

動的試験によるオイル消費量測定

質量分光法は、オイル消費量決定のための、トレーサーによらない化学的解析手法の一つで、このところ重要性を増しつつあります。極めて短時間で多量の情報が得られるのが、、この方法の特長です。静的オイル消費量特性マップが数時間で得られます。排気ガス中のオイル含有量の連続測定により、過渡運転条件におけるオイル消費量を決定することができます。測定システムの応答性は十分に高速で、負荷と速度のサイクリックな急速な変化に伴うオイル消費量の非常に動的な変動をも把握できます。排気ガスを燃焼室直後で取り出す仕組みなので、シリンダーごとの選択的測定にも対応しています。

広範な調査の結果、オイル消費量を希望どおりに最適化するための対策リストが出来上がりました。

ピストン温度

ピストンの耐久寿命を高い信頼性で計算するには、ピストン構成部品の作動温度を知ることが不可欠です。ピストン部品温度を測定するにはいくつか方法があり、必要に応じて使い分けられています。

迅速簡単な測定法の代表格は、templug(定義された合金製のスチールネジ)を使い、ピストンの希望する部位の定常動作温度を特定するやり方です。templugの残留硬度と熱作用を受けた時間の長さから、構成部品の最高温度を計算で求めます。

NTC法による乗用車用ピストンの温度測定

より高度の要求を満たす必要がある場合に用いられるのは、NTCと呼ばれる測定法です。この方法では、抵抗値の温度係数が負の半導体(NTCサーミスタ)を測定センサとして用います。データは誘導カップリングを介して、非接触で外部のデータ収集・解析装置に伝えらえます。ピストンごとに最大3つの測定ポイントを選択できます。

最高度の要求を満たす必要がある場合 — 例えば、作動マップ全域にわたる温度測定、パラメータを変更しながらの測定、お客様指定の試験走行に基づく過渡測定など — は、リアルタイム遠隔ピストン温度計測システム(Real-time Telemetry Piston Temperature Measurement System = RTM)と呼ばれるシステムを使用します。部品温度は、NiCr-Ni熱電対で検知します。センサからのアナログ電圧信号を、ピストンに取り付けたセンサ信号アンプでデジタル信号に変換します。その信号をテレメトリーを使って外部のデータ収集・解析装置に無線で伝送します。1個のピストンに、最大7つの測定ポイントを設定できます。

お客様はマーレのサイトでこのリアルタイム測定法を使って部品の温度負荷を計測、燃焼アプリケーションの設計にあたり、部品の熱負荷が許容限度を超えるのを防ぐことができます。

ノッキングで損傷した乗用車用ピストン

ノッキング

ガソリンエンジンにおける異常燃焼として知られるノッキングは、ピストンに損傷をもたらし、ときにはエンジンの故障の原因となることもあります。マーレが開発した測定・解析法を使って、個々のノッキングの発生を検知、数量化し、ノッキング強度をリアルタイムで把握することができます。ノッキングの振幅と点火角の比較から、ノック制御に関する結論を導き出し、ノック制御システムの最適化と検証を行います。